想い出 -途切れぬよう-

2008-10

決意

今日はなんだか空気が重い。

ひとつ、決心しました。





きみが以前
バイトで働いていた
コンビニに行ってみました。


なかには店員が3人ほど。

きみに会いに行ったころの
面影を少しばかり残して
店長さんはやつれていました。

少し話をしたいと云うと
奥の事務所に通してくれました。

あなたの話をすると
驚いたように目を見開き
でもすぐに理解したようでした。

「近辺整理でもしているのかい?」

店長さんは淋しそうに云いました。
私はなにも応えず辺りを見渡しました。

パソコンのディスプレイ、
それに貼られたいくつもの付箋、
商品や業務用のダンボール、
ペンでチェックがされているシフト表。

ここにはあなたの面影はありません。

あなたの名前を記したものもありません。

今のあなたの姿はどこにもありません。


自然、項垂れてしまいました。
そこから目を上げると、
店長さんと視線が合いました。

彼は笑いながら

「後は追うなよ」

と 呟きました。
やはり淋しそうに。


なぜかまた自然と
笑みが零れたのがわかりました。

その意味も自らよくわからずに。






コンビニを出ると、
最後の確認として振り返りました。

小高い丘を背にした風景は
"想い出"という記憶のなかにさえ
色褪せて見えます。

そしてその地を後にしました。


心のうちで

「あなたを見つけるまでは、終われないよ」

そう零しながら。

長雨

昨夜から降り出した雨が
まだ続いてます。

ときおり
窓辺に立つあなたの姿が
目に浮かびます。

「うっとうしいよな、雨って」

なにげない一言が
今さら思い出されて
悲しくなります。

あのとき
私がなんて応えたか
私は憶えてません……


あなたがいなくなってから
私があなたを想いだすように

私のことを
あなたは想い出してくれてますか。

あなたさえ忘れていなければ
誰も私のことを
考えてくれなくてもいいのに。


雨が神様の涙ならば

なにかのために
泣ける神様ならば

私たちは見放されたの?

なにか嫌われるようなことを
私たちはしたの?

愛し合うことは
誰かに嫌われることなの?



雨は
私を
少し憂鬱にさせるみたいです。

この想いが
もしあなたに届いてしまったら
そのときは謝らないとね

呼ぶ

きみは、なかなか名前を呼ばせてくれなかった。
昔から同じアダ名ばかりで
自分が成長しないような気がするからと
いつか教えてくれたね。

ダイくんと
呼ばせてくれるようになったのは
きみの誕生日のこと。

「俺の名前を呼ぶなら、
 お前だけの呼び方で呼んでくれ。
 お前なら許せる。だから……
 付き合ってくれ」


ねえ、ダイくん。
今でも呼び続けてるよ。

聞こえてたら
応えてほしいよ……

名前

お風呂あがりにバスタオルで頭を拭きながら
テレビのUFO特番をちらりと見る。

「人は知らないものに"怖い"って感情をもつ。
 だから名前をつけて知ってるものにするんだ。
 でも"Unidentified"っておかしいよな」

笑いながらいうあなたの言葉。


あなたの名前はなんのためにあったんだろう。
知らなかったらあなたという人が怖かったのかな。

あなたの"大祐"という名は、
いつまでも忘れないためにあるのかもしれないよ。


いつまでも忘れないために。

季節の変わり目

今日、病院に行きました。
またあなたの忠告を守れなかったよ。

「季節の変わり目は
 カゼを引きやすいから注意するように」

ちょっと小ばかにしたような笑みも
はっきりと憶えてるよ。

あの後も、私はカゼを引いたんだっけ。
「だから言っただろ」
そういいいながら心配している
あなたの顔が忘れられません。

熱をはかろうと額をよせたとき
キスをするとあなたは怒りましたね。
ほんと、私は考えなしに行動してしまって……
……ごめんね、ダイくん。


わがままな私は
またいつかあなたと
キスがしたいと考えてしまいます。

叶わない夢です。

晩夏のプール

もう夏が終わる。
日が暮れると、涼しいぐらい。

この時期になると思い出すんだ、
ダイくんがプールに連れて行ってくれたときのこと。
家でじゃれあってるときに
急に思い立って「プールに行こう!」って
むりやり私を連れ出したあの日のこと。

もうたいていの学校は夏休みを終えて
ちょっとした貸し切り状態のプールで
「よし、今日は泳ぎほうけよう!」
ってはしゃいじゃって。

私はおかしくって笑っちゃって
それを見たきみはちょっと恥ずかしそうに
「こいよ!」っていってくれたね。

私ができないバタフライを
かっこよく見せてくれたり、
ひとりでシンクロナイズドスイミングしたり、
本当にきみは忙しい人だった。

疲れた私に合わせて
2人一緒にぷかぷかと浮いてた。

「ちょっと寒いね」
きみはそうだな、といって
優しく抱きしめてくれた。

触れ重なった肌の温もりが
水に溶けて消えそうで
ほんとは私、もっと強く抱きしめてほしかった。

きみのあのときの優しさが
今では残酷に思えてしまうんだ。

映画館

よく2人で行った映画館、覚えてる?

ほとんど人がいなくてまばらな席の、
真ん中の列の後ろのほうに座って。

最初に見た映画の内容、私ぜんぜんわからないよ。
だってきみのことばかり見てたから。
きみのことばかり感じて、
きみのことばかり考えてたから。

ダイくんはどうだったのかな。
今はもう訊けないや。


でも、最後に見た映画は覚えてる。
不治の病にかかった女の子と
少し内気な男の子の高校生同士の純愛物語。

映画館を出て電車のなかで、
あなたはこう言ったの。

「あれは結局つくりものだな。高校生があんな恋愛できるとは思えないよ。つくった人がある程度の歳をとった大人で、あの頃ああいう恋愛をしたかったっていう願望の現われでしかないんだ」

私はなにも応えなかった。
あなたの横顔を見てるだけで幸せだったから。


あれから時間が過ぎて、
今になって思うの。

あの映画は本物だって。
高校生でもああいった恋愛はできるんだって。

ううん、高校生だからできるの。
まだ恋を知らない無垢な白い心をもってるから。
大人は恋を知って、折り合いをつけてしまう……

ねえ、ダイくん。
私、まだ子供だね。
折り合いなんてつけられないよ……



あの映画館ね、
この間、取り壊されちゃったみたい。

すぐにビルが建って、
テナントを募集してた。

また想い出がひとつ減っちゃった。

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